流れ場の新しい可視化技術(Background Oriented Schlieren: BOS)の研究

2019年6月29日

 BOS (Background Oriented Schlieren) 法は,流れ場に擾乱が発生するときに流体の屈折率が変化する現象を利用して,流れ場の密度変化を光学的に可視化する測定方法の一つです。図1に示すように,BOS法では測定対象となる流れ場の後ろに任意のパターンを持つ画像(背景画像)を配置し,撮像系(デジタルカメラ)によって流れ場の撮影を行います。流れ場の密度勾配によって生じた背景画像の歪みを測定することで,流れ場を可視化することが可能となります。

図1. BOS 法の測定原理

 BOS 法は,微細な光軸調整を必要とする従来の光学的可視化手法と比べて,撮影系の構成が非常に単純で,セットアップも容易という利点を持ちます。必要となる機材は,適当な光源と背景画像,及びデジタルカメラのみで,従来のシュリーレン法やシャドウグラフ法で必要とされる凹面鏡やミラーなどの光学部品を必要としません。また背景画像及びカメラの設置自由度が高く,シュリーレン光学系が組めないような狭いスペースにおいても,背景とカメラを設置できれば流れ場の可視化が可能となります。更に背景として自然風景を選べば,屋外で行われる実験のように規模の大きな現象も可視化することが可能となります。また,背景画像の変位量分布を画像処理で求めることにより,流れ場の屈折率分布,及び密度勾配分布を定量的に求めることが可能です。この利点を活かした密度場の定量測定,流れ場の三次元 CT 計測など,多くの研究がなされています。

BOS 法で可視化された流れ場のサンプルを示します。左の動画は背景画像として縦のストライプパターンを使用し,ホットプレートによって熱せられた空気の熱対流場を撮影しています。左下の黒い影がホットプレートで,拡大するとホットプレートの向こう側に設置した背景パターンが揺らいでいる様子が見て取れます。

左の動画は,上の撮影画像に対して画像処理を行って背景画像の歪み量を測定し,画素ごとに歪み量に応じた明るさを割り当てた結果です。原理的には従来のシュリーレン法と同等の結果が得られます。Background oriented Schlieren と呼ばれる所以です。

本実験ではホットプレートに水滴を滴下していますが,蒸発・上昇する水蒸気の様子も鮮明に捉えられています。


 図2に,超音速流れ場を BOS 法で可視化した例を示します。マッハ数の異なる二つの超音速流れを接触させたときに発生する流れ場を撮影したものです。

図2. 超音速流れ場を BOS 法で可視化した例

 BOS 法は,2000年代に入ってから発展してきた比較的新しい技術です。当研究室では,新しい背景パターンや変位検出アルゴリズムを開発することによって,BOS 法そのものの発展に寄与することを目的とした研究を行う他,超音速流れ場に BOS 法を適用して,従来の測定法では得ることが難しい定量的情報を流れ場から引き出し,新しい知見を得ることを目的とする研究を行っています。