半球殻周りの超音速流れ場に関する研究

2019年4月17日

研究背景と目的

図1 キャノピー形状崩壊の様子[1](クリックで再生/停止)

宇宙機の惑星大気圏突入時の減速時に有効な手段の 一つとして,パラシュートによる空力的減速が挙げられます。パラシュートは軽量で収納性が高く,容易に大きな抗力を得られる等の利点を持つことから,多くの惑星大気圏突入ミッションで採用されてきました。大気圏突入時,超音速状態で展開されたパラシュートは,条件によってキャノピーの形状が周期的に大きく崩れるなどして空力特性が不安定になることが知られており(図1),安定的かつ効率的に減速できる条件を実験的に調べる研究が数多くなされました。

図2 超音速流れ場中で展開したパラシュート周りで非定常性を示す衝撃波[1](クリックで再生/停止)

その結果,不安定の直接的原因は,パラシュート前方の離脱衝撃波が非定常に振動する現象にあることが明らかとなりました。さらにこの離脱衝撃波の振動には,主流マッハ数,ペイロード後流やサスペンションライン周りに発生する衝撃波,キャノピーの通気率など,多くの要因が関係していることが明らかにされました[1](図2)。これらの実験的研究によって超音速パラシュートが安定的に機能する条件が網羅的に探索され,安定条件の範囲内で実用に供されています。しかし,衝撃波の非定常振動がなぜ,どのようなメカニズムで発生するのかといった,現象の詳細についての理解は進んでいませんでした。

単純化したパラシュートモデルとして剛体半球殻を使用した実験的・数値解析的研究がなされましたが[2-5],数値解析では離脱衝撃波の非定常振動が再現されておらず,更なる研究が必要とされていました。

本研究では,単純化したパラシュートモデルとして剛体の半球殻を使用し,3次元の数値シミュレーションによって離脱衝撃波の振動が発生する原因を明らかにすることを目的としました。

結果

Mizukaki ら[3]の実験条件で数値シミュレーションを行うと,実験と数値計算の間に非常に良い一致が見られることが分かりました(図3,図4)。これを踏まえて数値シミュレーションの結果を解析すると,準定常状態から離脱衝撃波が激しく振動する非定常状態へ移行する過程が明らかになり,実験では観測できない半球殻内部の様子を含めた現象の詳細が明らかにされました [6-8](図5)

図3. 実験[3](上)と数値シミュレーション(下)の比較
図4. 実験[3](左)と数値シミュレーション(右)の比較

 

図5. 数値シミュレーションによる現象の解析

参考文献

  1. A. Sengupta, Fluid Structure Interaction of Parachutes in Supersonic Planetary Entry,  21st AIAA Aerodynamic Decelerator Systems Technology Conference and Seminar,  AIAA-2011-2541 (2011)
  2. 平木講儒,超音速領域における半球殻の空力特性に関する実験的研究,東京大学修士論文 (1992)
  3. T. Mizukaki, N. Kawamura, Instability Characteristics of Shock Waves Ahead of A Hemispherical Shell at Supersonic Speeds, ICAS2012 (2012)
  4. 高倉葉子,平成23年度衝撃波シンポジウム講演論文集,pp. 199-202 (2012)
  5. 川村尚史, 水書稔治, 阿部隆士, 山田和彦,平成23年度衝撃波シンポジウム講演論文集,pp. 439-440 (2012)

関連業績

  1. Hatanaka K, Rao MV S, Saito T, Mizukaki T, Numerical investigations on shock oscillations ahead of a hemispherical shell in supersonic flow, Shock Waves, Vol.26, No.3, 299-310 (2016)
  2. 畠中和明,齋藤務,水書稔治, 超音速流体中の剛体半球殻前方衝撃波の非定常振動に関する数値解析, 平成25年度衝撃波シンポジウム (2014)
  3. 畠中和明,齋藤務,水書稔治, 超音速流中の半球殻周りの非定常流れ場に関する数値解析, 平成24年度衝撃波シンポジウム (2013)
  4. Mizukaki T., Hatanaka K., Saito T. (2015) Large Deformation of Bow Shock Waves Ahead of a Forward-Facing Hemisphere. In: Bonazza R., Ranjan D. (eds) 29th International Symposium on Shock Waves 2. ISSW 2013. Springer, Cham
  5. Toshiharu Mizukaki, Kazuaki Hatanaka, Tsutomu Saito, and Kazuhiko Yamada. “Experimental Investigation of Unsteady Shock Oscillation by a Forward-Facing Hemisphere at Mach 3", 54th AIAA Aerospace Sciences Meeting, AIAA SciTech Forum, (AIAA 2016-1767)